三重県南部、尾鷲市に挑戦しがいのあるトレイルがある。市街地を取り囲む山々の登山道をつないだルートで、踏破した最後の記録は40年以上も前。 そのルートが尾鷲トレイルと呼ばれ始めたのは、つい7年前のこと。まだトレイルランナーが全区間37・7㎞を通しで走った実績もなければ、再び尾鷲を周遊する1本のトレイルとしてつなげられるのかも調査しきれていなかった頃だ。

現在もマイナートレイルのひとつだが、尾鷲トレイルをどうしても今回のトレイルラーメンに加えたかった。 理由は短い時間の中で携わる人たちの熱さを受け取ったからだ。平成から令和になり、もはや絶滅したかと思われていた浪漫が、尾鷲トレイルには漂っている──。

ナビゲートしてくれたのは尾鷲トレイルを知り尽くした吉澤将典さん、トレイルランナーとして初めて通しで尾鷲トレイルを走破した清川健治さんに加え、忍者トレイルラン ニングレース主催者の恵川裕行さん。 実はこの尾鷲トレイルのことを教えてくれたのは、昨年走破したばかりの恵川さんだった。「スキーでいう、バックカントリー的なコースを楽しめます」。見せてもらった数枚の写真で完全に引き込まれてしまった。

コースの起点は猪ノ鼻水平道となる。約2・5㎞は海に近いフラットなトレイルを進むが、そこから約2・5㎞で標高約500mまで登ってオチョボ岩、天狗倉山(てんぐらさん)を踏んで行く。走れる区間はどこも短く、急斜面が続く。 次は標高599mの便石山(びんしやま)だが、意地悪いことに一度標高220mまで下がってから登り返さないといけない。しかも便石山の登りのほとんどは木段。30℃超の気温もダブルパンチとなり、何度もノックダウンしそうになった。

そんな状況で心を支えてくれたのは、要所から見える素晴らしい景色だろう。オチョボ岩や天狗倉山の山頂からの眺めは、低山ながら圧巻だった。 便石山の象の背は、名前通り象の背中のような形で不安定だが、そこに立てば尾鷲の街や尾鷲湾を見渡せる大パノラマが広がる。

便石山から先はハイカーがほぼ入らないエリアで、山の雰囲気が急変。坂下トンネルをオーバーパスしたすぐ先にある何枚田分岐で尾鷲の街へと下るルートに入る。舗装路に出たらひたすら直進。今回のゴール地点に選んだファミリーマートでは、冷えたコーラで乾杯した。 つい標高にだまされてしまうが、実際は〝がっつり山岳系〟の尾鷲トレイル。その3分の1をたどった感想は「欲張ることなく、じわじわと攻めていくのが無難」ということ。ちなみにマップは尾鷲トレイルのフェイスブックページで入手できる。

尾鷲トレイルの総距離は37.7㎞で、累積標高は4000m以上と言われている。 ここまでの北尾鷲トレイルは天狗倉山、オチョボ岩、便石山の象の背など、絶景スポットが豊富。いずれも世界遺産・熊野古道(馬越峠)からのアクセスがよく、古道客やハイカーにも人気だ。

西尾鷲トレイルは標高800~1000mの山々をつなぐ尾鷲トレイル最深部。エスケープが容易ではなく、登山でも中級者以上の技術が必要と言われている。ルート上には巨木が現れ、北尾鷲トレイルとは雰囲気がまったく変わる。

また尾鷲トレイル最高峰の高峰山山頂(標高1045m)からは大台ヶ原、大峰山脈が望める大パノラマが楽しめる。

南尾鷲トレイルは再び山の形相が変わり、比較的走れるルートが多い。終盤には再び海を感じられ、ゴールは漁港を抜けた先、海に浮かぶ宮島にある弁財天神社の鳥居前だ。




別の場所で動き始めた活動が1本の道につながり、尾鷲トレイルは誕生した。ひとつは現在の尾鷲藪漕隊(写真上)の内山佳和さんと林勝廣さんの活動だ。 40年前に先輩が3泊4日で尾鷲1周したことを知っていた内山さんはその探索をしていた。ある日、同級生で尾鷲の古道探しをしていた林さんと内山勝稔さんと遭遇。以前のように1周をつなげたいねと盛り上がった。
そこにもうひとつの活動が出会ったのだ。福田晃久さん(写真左下)と植野めぐみさんの活動で、2011年に慶応大学ワンゲル部から「尾鷲をつなぐトレイルの情報が欲しい」と連絡があったことから始まり、そのワンゲル部の山行記録をもとに「尾鷲トレイル」と命名して調査を開始。その中で内山さんたちと出会った。

こうして2013年、林さんと内山さん、内山勝稔さん、福田さんの4人を中心に1年かけて尾鷲トレイルを本格的に調査した後、整備がスタート。鎌とのこぎりが主な道具だったので、300mで1週間かかった区間もあったという。 2017年5月からはキロポスト設置を始め、同年12月に完了。現在は濱田哲さん、木許勝弘さん、可知景子さん、松場弘さんらが加わった薮漕隊の活動によりトレイルは維持されている。

何度か行ったことがあれば尾鷲トレイルで迷うことはないが、初めてコースに踏み入れた時は戸惑うポイントが何カ所か出てくるだろう。基本は1㎞ごとに「尾鷲トレイル」の道標(右写真)が設置され、細かい区間にオレンジのマーキングテープ(上写真)が付けられているので、それを頼りにするといい。

また今回の掲載に合わせて「外遊びぷろじぇくと!トレイルランチーム&薮漕隊」の皆さんが、右上写真のように「RUN+TRAIL紹介コース」の特別道標も設けてくれている。

尾鷲トレイル全37㎞を通しで走るチャレンジは“一撃”と呼ばれ、まだ14人しか成功していない。その数字は、距離からは想像できないタフさがこのコースにあることを証明していると言える。 過去、単独走破を成功させた土井陵さんは8時間を切るコースレコードタイムを記録したが、一撃の過酷さを次のように語っていた。
「急登と急降が連続するタフなコースです。とくに水を補給する場所がないため、すべて自分で携行しなければいけません。私が走破した時の最高気温は20℃超。それでも暑すぎて、チャレンジに適した環境ではありませんでした。しっかりとした事前準備や情報収集を行ない、時期を見極めてチャレンジしてください」(土井さん)。

このコースの詳しい情報は、『RUN+TRAIL Vol.44』に掲載されています。 どうぞ合わせてご覧ください。
RUN + TRAIL Vol.44 2020.08.26 定価1200円
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English version is available.
英語版があります。
日本語版があります。
Japanese version is available.
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